【絵を読む】完璧な観察眼を持った史上最初の芸術家による「アルノルフィニ夫妻の肖像 」の絵画の謎解き《暗号》



作者と絵画について


初期フランドル派の画家ヤン・ファン・エイクが1434年に描いた絵画。油彩による濡れている絵具層のうえから新たな絵具を乗せて混ぜ合わせる技法(写実手法)や錯視的技法による新技法の確立者。後にこの新技法をレオナルド・ダ・ヴィンチは「モナ・リザ」に使用している。


さて、ここから(以下)は絵画「アルノルフィニ夫妻の肖像 」の謎《暗号》についてご紹介したい。

夏の季節を描いているのに、新郎新婦は厚手の衣装




描かれている部屋は二階以上の部屋で、窓の外に見える桜が果実をつけていることから季節は夏と考えられる
アルノルフィーニ夫妻像 - Wikipedia

季節は夏であるにも関わらず男性はタバード(袖なし、あるいは袖の短いショートコート (en:Tabard))姿、女性は厚いドレス姿で、しかも毛皮で縁飾りが施されている。
アルノルフィーニ夫妻像 - Wikipedia


毛皮や縁飾りが施されたドレス、シルク織りの模様など非常に高価な衣装のようです。
服装は何故かこの季節には不相応な厚手の毛皮ですが、帽子は黒く着色された麦わら帽子なのだそう。謎です。


一本だけ灯っているロウソク




シャンデリアをよーくみてください。一本だけロウソクが立っており、火が灯っています。ロウソクは信義の象徴なのだそう。

天井の銅製のシャンデリアには、一本の蝋燭しか灯されていません。これは神の目を表していて、神聖なる結婚が行われていることをあらわしているそうです。
ルネサンス | ムッシューPの美の探究

もしロウソクが、新婦側に立てられていたら懐胎を告げる表しなのだそう。
新郎側だけに立っている理由としては別(亡き先妻との記念肖像画)の説もあるようです。
ロウソクは生者の上に立っており死者の上には立たない。後で説明している凸面鏡のフレームの浮彫と合わせて考えると夫は生者、妻は死者という解釈もうなづけるような気がします。


窓枠と机の上にポツンと置かれているオレンジ(果物)




旧約聖書の詩篇中に「高潔な人とは葉を落とさない樹木のよう」とうたわれたことからオレンジの木は天国の象徴であり「知識」を表すのだそう。
ということはオレンジは知識の実なんですね。
知恵の実 = アダムとイヴが犯した原罪から解放した物(リンゴ)と同等の意味をもつのでこれから生まれてくる予定の子供に救世主という期待をも込めているのかもしれません。


当時、極東の物品はちょっとしたブームだったようで、こうして中国原産の果物を描くのはインテリのあかし
オレンジの話 : ルネサンスのセレブたち

オレンジは当時のブルゴーニュでは非常に高価な果物であり、アルノルフィーニが取り扱っていた商品の一つだったのかもしれない
アルノルフィーニ夫妻像 - Wikipedia

ということで、裕福であった(富)も表しているんですね。
また、イタリアではオレンジは豊穣や多産を表すんだとか。


無造作に置かれた女性物の靴と先端が尖った男性靴






1430年、ジャンヌ・ダルクを捕らえたブルゴーニュ公国のファッションリーダー的存在のフィリップ善良公が流行らせたと言われる木靴が左下に見えます。
先が尖っている木靴で宮廷で流行ったんだとか。
また、よーくみると新郎新婦が手を合わせている点から下に下がってみると女性物の靴も発見できます。
お互いに履物を脱いでいる光景は神聖な儀式をしている証なんですね。


鏡に映っている、描かれていない人物




絵の真ん中、夫妻の間に凸面鏡があります。その鏡には、よく見ると夫妻の後姿の向こうに、こちらを向いた二人の人物、青い服の男と赤い服の男が、見えます。ひとりはこの絵を描いてる画家自身、もうひとりは結婚の立会人といわれています。
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凸面鏡にはアルノルフィーニ夫妻像と対峙して、ドアのすぐ近くにいる二人の男性が映し出されている。手前の赤い服の男性はファン・エイク自身(画家)だと考えられている
アルノルフィーニ夫妻像 - Wikipedia

凸面鏡に正面に映る2人の人物は画面に描かれておらず、我々(絵を見ている)側にいることになります。
不思議と同じ空間にいるような印象を受けますね。



当時の結婚は、神父の立会いを必要とせず、二人の成人の立会いだけで成立するので、画家を含む二人が、立会人になっていると考えられます。さらに凸面鏡に上には“ヤン・ファン・エイクここにありき 1434年”とラテン語の記銘があります。これは、画家のサインというより、結婚の立会人としての署名とみられます。
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画家のサインを画中の壁に書いたように表現しているのもなんとも新鮮。そもそもこの時代の画家で作品にサインを描く方はいなかったそうです。先駆者なんですね。

但し、この作品他の作品とサインの内容が若干異なっているようです、常に「これを描く」という表記なのに対して、アルノルフィーニ夫妻の絵は「ここにありき」と描かれているようです。ですので、これはサイン以上の意味(結婚の立会いを証明するサイン)として解釈する方が多いようです。


妊娠しているようでしていない新婦




新婦の衣裳が、まるで妊婦のように、腹部が膨らんでいて、妊娠(あるいは妊娠祈願)を表しているという説もありますが、当時流行のファッション衣服という説もあります。
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当時のヨーロッパでは、妊婦のような体形が究極の女性美を表すと考えられていたため、女性たちは腹のまわりに詰め物をして美しさを競っていたのです
雑話225「謎だらけ『アルノルフィニ夫妻の肖像』」|絵画BLOG-フランス印象派 知得雑話

安産祈願や妊娠祈願、すでに妊娠をしている説もある。左記の安産祈願や妊娠祈願説の理由としては、ほうきが掛けてあるベッドの支柱の頭部にある聖マルガリータの木彫。合唱する女性に竜が彫られていて安産の守護聖女とされているとのこと。ただ当時の時代背景からすると夫婦の妊娠への願いなのかもしれません。


女性の聖人を描いた絵画には非常に多く見られる装束で、当時女性の間で流行していた着こなしだったと指摘している。ルノルフィーニは布地の商人だったこともあり、衣服の流行を重要視していたと考えられている。
アルノルフィーニ夫妻像 - Wikipedia

ファッション説が濃厚なような気がしますね。


意味深な凸面鏡のフレームに描かれた10つのシーン




先のロウソクの解釈で生者と死者の記念肖像画説なんてものもあるよーと書きましたが、10つのシーンはどれもキリストの受難の場面が描かれています。
これだけだったら、ほうき(聖水をまく刷毛)や数珠(信仰の象徴ロザリオ)もありますし、キリスト教を重んじる夫婦なんて解釈でもいいかもしれませんが、
実は左側(夫側)には生前のシーンを、右側(妻側)には死後のシーンが描かれているんです。


不自然に握られた手




重ねられた夫妻の手が何を意味しているのかも、研究者の間で議論となっており、この手こそが作品の主題であると指摘している研究者も多い
アルノルフィーニ夫妻像 - Wikipedia


新郎は左手で、新婦の右手の掌を、こちらに向けて握っています。新婦の掌をこちらに向けて、手をつなぐのは、明らかに結婚の契約を表すという説が、定着しているそうです。
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新郎の左腕が右腕に比べて短くなっていることから不自然に見えるんですね。

通常は握手するように右手で右手をとるのですが、ここでは男性の左手で女性の右手をとっています。これは、身分か家柄が違う結婚を示しているのです。
雑話225「謎だらけ『アルノルフィニ夫妻の肖像』」|絵画BLOG-フランス印象派 知得雑話

他には男性の左手で女性の右手をとっている表現は、結婚ではなく婚約の誓いを表しているという説もあります。既に指輪の交換という儀式も普及していたし、結婚の誓いも教会でやらないのはちょっとおかしいという説ですね。たしかにうなづけます。


可愛い犬




犬は、忠実、誠実の象徴として知られています。また地上の愛も表すそうです。
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犬が夫婦の中央にいることから、女性が夫以外の男性に身や心を許さないこと(貞節)も表現されてるんですね。



疲れました。描かれている一つ一つに意味があるとても興味深い絵です。
私の中途半端な頷きは省いて様々な説がある「アルノルフィニ夫妻の肖像」は観てもよし!読んでもよしですね。